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ライターとしてのお話
Sinon:
では、インタビューはそういう流れでやってるということで、インタビューではないゲーム音楽についてのライターの仕事として聞いていきたいと思います。
hideさんの経歴で多いのは、ゲームニュースメディアのINSIDEさんでゲーム音楽紹介の連載記事が全62回あるのと、あとはゲーム音楽コンサートのレポートなど。
まずはINSIDEさんの連載ですが、これはそもそもどういった経緯でお話がきたのかというところから伺えますか。
hide:
これは、当時の担当編集者さんから連載をお願いできませんかとお話をいただきました。連載を始める前までは、コンサートのレポート記事をメインに書いていたんですけど、そのときに連載記事を増やしたいという流れがあったらしくて。ゲーム音楽という柱で連載をやってみませんか、と。
Sinon:
なるほど、ゲーム音楽について色々書いている人がいるぞ、みたいな。
連載記事は「ゲームの音楽の魅力を色々紹介していく」というテーマだと思うんですけど、毎回のテーマとかはhideさんから提案していたんですか?
hide:
正直、最初のころは、はじめての連載ということもあってだいぶ手探りだったんですよ(笑)。連載の第1回はゲーム音楽コンサートのススメで、2回目はゲーム音楽のサントラについて、という内容でした。その後、『ゼノブレイド』や『スーパーマリオワールド』といった、音楽が魅力的でオススメなゲームを1作品ずつ紹介する、というスタイルで書いてみたら、これが書きやすかったので、それ以降は最後までその形で書きました。
Sinon:
これはどういうペースで連載していたんでしょうか?
hide:
隔週連載ですね。
Sinon:
取り上げるゲームタイトルの決め方はどんな感じなんでしょう? 『ゼノブレイド』が最初にきているのは、hideさんのイチオシは『ゼノブレイド』!ってことですか?(笑)
hide:
そうなりますね(笑)。あとは、当時『ゼノブレイド』のNewニンテンドー3DS版が出たからというのもあります。この連載では、僕のオススメしたいゲームが、移植版などで新たな形で世に出るタイミングにあわせて記事を書いたことも結構ありました。
Sinon:
なるほど。INSIDEさん自身がゲームのメディアなので、それにあわせてゲームのリメイクとか発売とかにリンクさせて記事を書いているという……?
hide:
はい。そのほうが記事の注目度が上がりやすいという部分も含めてですね。
Sinon:
今までで1番反響があった記事はどれなんでしょう?
hide:
なんでしょうね……あっ、『ワイルドアームズ』の記事です! この連載は、いつもは隔週木曜日の掲載だったんですけど、当時、『ワイルドアームズ』は発売20周年を迎えていたんですよ。それをお祝いしたかったので、この記事はちょうど20周年を迎える当日に公開できませんかと編集さんにお願いしたんです。それが通って、20周年の当日に公開していただいて、おかげさまでSNSでもかなり拡散していただけましたね。
Sinon:
やっぱりしっかりファンがいるタイトルで、ちゃんと節目にあわせた記事だと、読者も「おっ」と思って見てくれるんですかね?
hide:
かもしれないです。
Sinon:
この連載では、hideさん自身がプレイしてきて「このゲームは良かったなー」というものを取り上げているんでしょうか?
hide:
そうですね、この連載で取り上げたゲームは、全て僕がクリア済で、かつ音楽がいいなと思ったものだけです。
Sinon:
hide名作リストみたいな。
hide:
「hideの太鼓判!オススメッ!」(ハンコを押す動作)みたいな感じです(笑)。
(参加者):
じゃあこの連載に関しては、他の人に「この作品について書いてほしい」と依頼されて書いた記事は無い?
hide:
それはまったく無いです。「この作品がオススメだから紹介したい!」というものだけですね。
Sinon:
演奏会のレポート記事についてですが、これは演奏会の主催者側から「ぜひうちを取材してください」みたいに言われるのか、それともメディア側から、「この演奏会注目されてるからレポ書いて」みたいに依頼されるのかどちらなんでしょうか?
hide:
演奏会のレポート記事については、主催者さん側から「こういう演奏会があるので記事を書いていただけませんか」とご依頼をいただくのと、自分で「この演奏会は今までにあまりない題材で面白そうだから、取材してみたい!」という2つのパターンがあります。
Sinon:
なるほど。ちなみにその取材してみたいというのをメディアさんに伝えると、「よしいいよ、取材してきて。取材費渡すよ」みたいになるんでしょうか?
hide:
取材費というより、取材して記事を書いたあとに原稿料をいただく形ですね。
Sinon:
hideさんの記事以外にも、いろんなメディアさんがゲーム音楽演奏会のレポートをあげていると思うのですが、ゲーム音楽ライター同士で面識あったりするんでしょうか。ライバル関係みたいな?(笑)
hide:
僕はそういうのは、あんまり意識したことないですね(笑)。
Sinon:
顔見知りになったライターさんとかは?
hide:
はい、います。
Sinon:
普段からがっつり交流があるとかそういう感じではない?
hide:
たまに飲みに行ったりするくらいですね。仕事で同じ記事を担当することはあまりないです。
(参加者):
そういう方々って年齢は近いんですか?
hide:
はい、わりと近いか、僕よりも少し年代が上の方が多い印象ですね。30代から40代くらいの。
Sinon:
やっぱり、ゲーム音楽について詳しい人がちょうどそのくらいの年代なんでしょうかね。
hide:
そうですね、それはあると思います。
Sinon:
お次は少し抽象的な質問になるんですけど、hideさんがライター・インタビューのお仕事をやってきた中で、どういうところが楽しいとかキツイみたいなのってありますか? ……キツイ話を先に聞こうかな(笑)。
たとえば、hideさんはお仕事としてコンサートを聴いたりするわけですが、素直にお客さんとして感動できなくて、全部レポートしなきゃ……みたいになることはあるんでしょうか。
hide:
それはありますね。たとえば『ニーア オートマタ』のコンサートを取材させていただいたときは、あまりにも演奏が美しくて感動して、メモを取る手が何度も止まっちゃったんですよ(笑)。でもハッと我に返って「アカン、これはちゃんと記事にしなきゃ!!」と思ってメモをとるんですけど、また感動して聴き入っちゃって、「ヤバい!また手が止まってる!」ということが何回もありました。
本当にいちお客さんとして楽しむんだったら、何も気にすることなくコンサートに没頭すればいいんですけど、仕事ではそれができないので、そこがちょっと、難しいところではありますね。
Sinon:
レポート記事の途中で「ここから筆者の記憶が飛んでおります。なのでレポートに書けませんでした」みたいなことはできませんよね(笑)。
hide:
それができたら楽なんですけどね(笑)。
Sinon:
この人、毎回記憶飛んでるなってなっちゃう(笑)。
hide:
やっぱり仕事として行く分、音楽にどっぷり浸れない部分はありますね。楽しいのは楽しいんですけど、「会場の熱気をきちんと伝えなきゃ」という使命感や緊張感があります。
Sinon:
ゲームを遊んでても、常にゲーム音楽を分析しちゃうみたいなことはありますか? ゲーム遊んでるときは特に考えずに遊んでいますか?
hide:
そうですね、あまりそういうことは考えずに遊んでいます。ただ、ゲームをしていないときとかに、「あっ、そういえばあのシーンのあの曲は、あの曲と繋がりがあるのかな」みたいなことを考えたりはします。遊ぶときは本当にいちユーザーとして楽しんでいますね。
Sinon:
なるほど。そういう職業病的なのがコンサートを聴くときにはあるということですけど、では逆に、ライターをやっててよかったと思うのはどういうところでしょうか?
hide:
僕は、ライターになる前は本当に普通のいちサラリーマンだったんですけど、もしサラリーマンをやっていたら絶対にできなかっただろうな、という貴重な経験を色々させてもらっているので、それがすごく楽しいです。
Sinon:
そもそも作曲家さんにお話を伺うってことがまずできないですしね……。あとは、記事を書いたときに「記事を書いてくれてありがとうございます!」的な反応とかはありますか?
hide:
ありますあります!連載のときは結構うれしいお声をいただくことが多かったですね。たとえば、かなり熱を込めて書いた『ニーア オートマタ』の紹介記事の公開後に、「すごくわかります!書いてくれてありがとうございます!」的な、共感の声をいただいたときはめちゃくちゃうれしかったです。
あと、それ以上にうれしかったこととしては、『逆転裁判』のディレクターである巧舟さんが作った『ゴーストトリック』というゲームがあるんですけど、その紹介記事を書いた後に、読んだ方が実際にプレイしてくれて「面白い!」と言ってくれたんですよ。僕の記事を読んでくれて、かつ興味を持ってくれてゲームをプレイしてくれて……。そういう、“アクションを起こしてくれる”ということが、ライターとして一番うれしいです。
Sinon:
ライターやってるからには、それが何かしら読者に響いてほしい、みたいな?
hide:
はい。僕の記事が、誰かの心に響いて行動を起こしてくれたときが一番うれしいです。「伝わった!」という喜びが半端じゃないです。
Sinon:
さっきの「わかります!」という反響もそうですが、トライノートで活動していて感じているのが、ゲーム音楽好きの知り合いが今まで周囲に居なくて、自分の中に「このゲームの音楽良い!」っていう気持ちを一人で抱え込んでいたという人が結構いるんですよね。
それが他の人に「このゲームの音楽いいよね!」と認められると、「そうなんです!良かった仲間がいた!」みたいな気持ちになって。
そういったゲーム音楽の良さを認める気持ちみたいなのが、ちゃんとメディアの記事として残る形で出るのはすごくいいなと思います。
hide:
ありがとうございます。前々から思っていたことなんですけど、ゲームのニュースサイトや雑誌の記事って、新作ゲームにしてもこれまでに発売されてきたゲームにしても、“音楽についてメインに取り上げて語っている記事”というのは、それほど多くない印象なんです。
Sinon:
やっぱりゲームは売れることが重要だから、まずは「グラフィック」とか「声優さん」みたいな分かりやすいところを取り上げますよね。
hide:
そうなんですよ。やっぱり綺麗なグラフィックとかに比べると、音楽って隅に置かれがちかもしれないですけど、ゲームの世界観や物語を演出するという意味では、音楽は間違いなく重要だと僕は思っていて。そういうことを、なんとかして多くの人にお伝えしたいなと思って、あの連載記事を書いていたんです。
ちょっと誤解されがちなので補足しておくと、「このゲームの音楽”だけ”がいいから聴いてみてください」じゃなくて、音楽というものを絡めてゲーム自体をおすすめしたい部分もあって。この作品を構成する大事なポイントのひとつとして、音楽を使った演出がすばらしいんですよ、というのを言いたいなと思っていて。
(参加者):
音楽はゲームから切り離したくない?
hide:
はい、切り離して考えてないですね。音楽は、あくまでもそのゲームを演出するための一要素としてとらえています。
Sinon:
「ゲームはちょっとイマイチだけどこの曲はすごく素晴らしい……」みたいなものは、あまりhideさんおすすめリストには挙がらなくなりますか?
hide:
うーん、そこは割と難しいところで。理想としてはやっぱり、ゲームとして面白くて、音楽もいい!というのが一番なんですけど、そうじゃないゲームもあるわけですよ。
Sinon:
そういう場合にはオススメするのは諦めるという風に考えるのか、それとも、ゲームはちょっと惜しいところもあるけど、でもこういう魅力はあって……!みたいな方向に持っていくんでしょうか?
hide:
どちらかというと、いまSinonさんがおっしゃった後者のほうですね。できるだけ魅力を見つけてお伝えしていきたいです。
Sinon:
惜しいところもあるけど、いいところに積極的に目をつけて。
hide:
そうですね。
Sinon:
やっぱりポジティブな方向にオススメしていきたいという感じなんですね。
hide:
はい。たとえばゲームシステムはちょっと惜しいけど、音楽のこういう演出はいいんですよ、みたいな。「ゲームシステムがダメだからこのゲームは全部ダメ」みたいに言う人もいるかもしれないですけど、それはちょっともったいないなと思っていて。「こういうところは美味しいんですよ」というのを、そっと差し出してあげたいという感覚ですね。
Sinon:
なるほど。魅力を発見して人に伝えるのがライター……、いい感じにまとめられたんじゃないでしょうか。
Sinon:
この後は質問とか皆さんたくさん聞きたい事あると思うんですけども、一旦休憩を挟むということで、ひとまずはありがとうございました。(一同拍手)
続いては、hideさんに質問に答えて頂くコーナーです。<次ページへ続く>