トライノート トークライブ Vol.1「ゲーム音楽ライター」に訊く

トライノートでは、「ゲーム音楽」に関連する分野で活動されている方に対し、アマチュア・プロフェッショナル問わずインタビューしてみよう! という「トライノートトークライブ」企画を始動させました。
その記念すべき第1回に、ゲーム音楽のジャンルでライター・インタビュアーとしてご活躍されているhideさんをお招きし、色々と聞いてみました。

インタビューゲスト:hideさん
インタビュー聴き手:Sinon(トライノートメンバー)

導入部

Sinon:

はい、ということで今回はhideさんをお呼びして色々聞いてみようということで企画してみました。
hideさんはゲーム音楽のライター・インタビュアーのお仕事をされているのですが、そのあたりをこの機会にググッと掘り下げていってみたいと思います。ライター・インタビュアーというのは音楽を言葉で扱う仕事だと思うのですが、「音楽を言葉で表現する」ことってどこが難しいのか、またどこが面白いのかというところを聞いていきたいなと。

hideさんの自己紹介

Sinon:

ではまずhideさんに改めて自己紹介をしてもらいたいなと思います。まずは、トライノート(旧称:2083ゼミ)に参加された経緯から。

hide:

僕はトライノートの前身である「2083ゼミ」の第1回から、初期メンバーという形で参加させてもらっていました。最初はだよタンさん(*1)が「ゲーム音楽が好きな人で集まりましょう」的な呼びかけをして集まって、今のような団体ではなくてオフ会のような形でしたね。
その当時からゲーム音楽には興味があったので、「おもしろそう。ちょっと行ってみようかな」と思って行ったのが、2083ゼミに参加したきっかけです。

(*1)トライノート(旧称:2083ゼミ)の発起人。(現在は退団)
ゲーム音楽イベントの企画・制作事業やメディア事業などを行う株式会社2083の代表でもある。

Sinon:

hideさんの好きなゲームや、好きなゲーム音楽についてお聞かせください。

hide:

語りだすと時間がいくらあっても足りないので(笑)、かいつまんでお話しすると、僕は小学生の頃からゲームをプレイしていました。初めてプレイしたゲームは、ファミコンの『スーパーマリオブラザーズ』です。最初の頃は『ワギャンランド』や『がんばれゴエモン』といったアクションゲームを中心にプレイしていたんですけど、当時はゲームプレイそのものに夢中で、ゲームの音楽はそれほど意識していなかったんですよ。ピコピコした楽しげな音が鳴ってる、くらいの印象で。
でも、最初にゲームの音楽に触れて、「あ、これいいな」と思ったのは『ファイナルファンタジーVI』(以下FF6)の曲ですね。「ティナのテーマ」とか。

Sinon:

はじめてやったFFが6ですか?

hide:

6です、はい。それまでRPGはプレイしたことがなかったんですけど、友達におすすめしてもらって借りて、はじめてプレイしたFFというのが6でした。

Sinon:

それは何歳くらいのときに?

hide:

中学校2年くらいのときです。自分の中のなにかが目覚めたんでしょうね、そこで。
(FF6作中の)世界崩壊後に流れる「仲間を求めて」という曲があるんですけど、それが6の中では1番好きですね。ほかにも、「妖星乱舞」(ラスボス戦BGM)とか「蘇る緑」(エンディング曲。20分を超える大曲)とか、すごく印象的な曲がたくさんあります。
そこから植松伸夫さんという作曲家を知って、やがて植松伸夫さんファンサイトというものがあることを知りました。

(参加者):

当時はファンクラブじゃなくてファンサイトですか?

hide:

はい、当時はまだ公式の植松伸夫さんファンクラブというものはなくて、一般の方が運営していたファンサイトがあったんです。そのサイト内の掲示板に、よくおじゃまして書き込みしていました。そこで知り合った現ゼミメンバーの方もいらっしゃいます。

Sinon:

じゃあ私たちなんかより全然前からの「植松伸夫さん戦友」がいたと。

hide:

そうですね(笑)。お互いにブログを書いて、コメントしあったりという交流もありました。あっ、そうだ!ブログの話もしておいたほうがいいですね。

Sinon:

そうそう、hideさんはブログを書かれていますよね。どのくらいの時期から始めたんでしょうか?

hide:

今振り返ると、ライターという仕事に繋がるものになるんですけど、個人ブログを2006年から10年以上書き続けています。今はゲーム音楽の話題についてメインに書くブログになっていますけど、最初のころは、日々思ったことなどをとりとめもなく書くブログでした。

Sinon:

「今日はラーメン食べました」とか?

hide:

そうです、そうです(笑)。でも、やがてブログを書くうえで大きな転機となる出来事に出会いました。リトルジャックオーケストラ(*2)さんです。2009年にリトルジャックさんがFF6をメインに取り上げた演奏会を開催して、そこで「妖星乱舞」をオーケストラとパイプオルガンで生演奏してくれたんですけど、それにものすごく感動したというか、衝撃を受けたのが大きいですね。「あ、こういうことをやる人達がいるんだ!」と、すごくびっくりして。
で、「これは、いろんな人に知ってもらいたい」と思って、本当に心の赴くままに感想をばーっと書いて、ブログに載せたんですよ。そしたらリトルジャックの団員さんにもご覧いただいたらしくて、割と反響があったんですよね、その記事が。
そこから、「ゲーム音楽の演奏会というものをやっている人達のことや、その楽しさを、もっと多くの人に知ってもらいたい」というところが、今やっているライターという仕事の原点だと思います。

(*2) ゲーム音楽をオーケストラで演奏するアマチュアの団体。年1回のペースで公演を行っている。

Sinon:

FF6がすごいキーになっている。

hide:

かなり、そうですね。

Sinon:

ゲームプレイ中に音楽を聴いて、リトルジャックさんで生演奏を聴いて衝撃を受けて……。

hide:

はい、ゲーム音楽そのものの素晴らしさを知ったという意味でも、それを生演奏で聴く楽しさを知ったという意味でも、FF6の存在がだいぶ大きいです。

Sinon:

なるほど。ありがとうございます。

hideさんのお仕事の話

Sinon:

それでは、お仕事の方の話に進んでいきたいんですけど。ブログをゲームの1ファンというスタンスで書いていたのが、リトルジャックさんに出会った後はゲーム音楽の記事が増えてきたんでしょうか?

hide:

そうですね、はい。その後色々とゲーム音楽の演奏会に行く機会が増えて、その感想などを書くことが増えていきました。

Sinon:

その辺りでゲーム音楽ブログみたいなカラーが固まっていったと。

hide:

そうですね。その後、2011年の東日本大震災をきっかけに、自分が本当にやりたいことは何なのか考えた結果、ライターとして活動することを決心しました。あと、同年の「4starオーケストラ」(*3)というイベントにスタッフとして参加させていただいたんですけど、その頃に、それまで使用していたハンドルネームから、僕の本名の一部である“hide”という名前に改名しましたね。

(*3) 株式会社2083が主催する、4年に1度開催されるゲーム音楽のイベント。これまで2011年と2015年に開催されている。

Sinon:

はじめてライターとしてお仕事を受けたのは、どのお仕事になるんでしょうか?

hide:

一番はじめは、2083WEBに載った坂本英城さんのインタビューですね。それはだよタンさんから依頼を受けた、はじめてのお仕事です。

Sinon:

2083WEBさんでは、最近は浜渦正志さんのインタビュー記事が載りましたね。

hide:

そうですね、はい。

Sinon:

ゲーム音楽作曲家さんにフォーカスしてインタビューする記事というのを定期的にあげてて……、あとは冊子みたいなものもありましたよね。

hide:

フリーペーパーですね。

Sinon:

そのフリーペーパーの方にもインタビュー記事を載せてる。だよタンさんからの依頼はそのコンテンツを作りたいから記事を書いてくれませんか。みたいな感じで?

hide:

はい。僕が担当する以前は別のライターさんがやってらっしゃったんですが、坂本さんの記事から僕が担当するようになりました。

Sinon:

それ以前の時点で2011年の4starオーケストラの運営スタッフをしていたんでしたっけ。

hide:

いえ、時系列的には坂本さんのインタビューの方が先でした。あとは、4starオーケストラ2011のパンフレットにも少し関わらせていただきましたね。パンフレットに演奏楽曲の紹介文を一部書かせていただいて。FF6とか逆転裁判とか、得意分野の作品を(笑)。

Sinon:

坂本さんのインタビューが先だったんですね。だよタンさんからは、「hideさんブログ書いてるんだからインタビュー記事も書けないですか?」みたいなことを言われたんでしょうか?

hide:

だよタンさんは以前から僕のブログを見てくれていたみたいで、だったら記事を書けるんじゃないかということでお願いしてくれたのかなと思います。

Sinon:

テキストも書けるし、ゲーム音楽にも詳しいし。

hide:

はい、それが大きかったんじゃないかなと思います。

Sinon:

最初にちゃんと仕事としてやるとなったときはどういう気持ちでしたか?
「えっ仕事!?そんな無理無理!」みたいな感じだったのか。
逆に、「よし、この日を待っていた!!」みたいな感じだったのか。

hide:

嬉しかったですね。ただやっぱり、緊張感がありました。今までは趣味としてブログで書いていたわけですけど、それがちゃんと世に出るものとして書くという意味では。言葉遣いもきちんとしたものじゃないといけないですし。

Sinon:

今はライターのお仕事について話を進めているんですけど、その最初のお仕事のときにはインタビューもしていたんでしょうか?

hide:

はい。坂本さんのインタビューが、ライターとしてもインタビュアーとしても初めてのお仕事ですね。

Sinon:

なるほど。いきなりインタビューから入ってる。

hide:

そうですね。

Sinon:

じゃあ、ライター・インタビュアーとわざわざ分けて話を進めなくてもいいのか……。

hide:

はい、割と重なる部分が多いです。

インタビュアーとしてのお話

Sinon:

では、そのインタビューの流れ的なところを聞いてみましょう。どういった段取りをするのかとか。
インタビューのお仕事というのは、例えば、「この人にインタビューをしたいのでお願いできますか」みたいに話がまず来るんでしょうか?

hide:

そうですね、まず「この方の取材記事をつくりたいのでお願いできますか」とオファーがきます。

Sinon:

その後、インタビューをする前に、先方とやりとりとかはするんですか?

hide:

はい。事前に、「こういう事をお聞きしようと思っております」的な質問リストをまとめて、先方にお送りします。

Sinon:

当日急に質問しても、答える準備ができてないとかあるんですかね?

hide:

はい。インタビューの当日にいきなりお聞きしても、なにを話そうかその場で考えてしまう方も少なくないので、事前に質問リストをお送りしておいた方がスムーズに進められますね。

Sinon:

質問内容を決めるのに、事前に下調べみたいのはするんでしょうか?

hide:

はい、もちろんします。例えばGoogle先生で、取材する方について調べたり。あとは、その方のお名前と「インタビュー」で検索して、過去にどんなインタビューがあったかを一通り調べて、みんな知っているような話は聞かないようにして、できるだけ被りは避けるようにしますね。

Sinon:

なるほど……。インタビューするにあたって、その人の過去の作品の曲を聴き込むとかはあるんでしょうか。

hide:

あ~、ありますね。質問リストを作るときに、その作曲家さんが作った曲を聴く、みたいなのはあります。

Sinon:

それで事前のやり取りをして準備をして……、インタビュー当日はカフェとか、向こうの事務所かなんかで行なうんでしょうか?

hide:

一番多いのは音楽スタジオですね。スタジオをご自分で持っている作曲家さんであれば、直接スタジオにお伺いしてインタビューします。ゲーム会社に所属している方であれば、その会社に直接お伺いしてインタビューすることもあります。

Sinon:

応接室みたいなところで。

hide:

そうですね、はい。あとは僕の知り合いのカメラマンさんがいらっしゃるんですけど、その方のスタジオに作曲家さんとともに伺って、写真撮影を兼ねてインタビューするということもあります。

Sinon:

インタビュー時の写真はhideさん自身で撮っているわけではないんですか?

hide:

基本的に、写真はカメラマンさんが撮っていますね。

Sinon:

インタビューの時間ってどれくらいかかるんでしょうか? 丸1日なのか、それとも1時間くらいで終わっちゃうものなのか。

hide:

丸1日はさすがに無いですけど(笑)、だいたいは1時間くらいですね。長くても1時間半とか。あんまり時間が長すぎても、まとめるのも大変ですし、冗長になっちゃいますから。

Sinon:

話がついつい盛り上がって時間が長くなっちゃうとか、そういうのはあるんでしょうか。

hide:

あ~(笑)、話が盛り上がると時間が伸びることはありますね。

Sinon:

その後、「夜ご飯とか飲みに行こうよ!」みたいになったりすることはないんですか?

hide:

たまにあります。某作曲家さんの取材はすごく盛り上がって、焼肉を食べながらインタビューの続きを伺ったことがあります(笑)。

Sinon:

焼肉(笑)。 hideさんっていろんな所で作曲家さんと知り合いだったりするイメージがあるんですけど、インタビューしてる段階ではほとんど初対面なんですか? それとも「あ~君か~!」みたいに面識があるのか。

hide:

いちファンとしての僕とお会いしたことを覚えてくださっている方もいらっしゃいましたね。ある作曲家さんは、昔、とあるゲーム音楽ライブでいちファンとしてお話しした機会があったんですけど、それからだいぶ時間が経った後にあるゲームの音楽についての取材でお会いしたときに、その方のほうから「あれ?どこかでお会いしたことありますよね?」と声をかけていただきました。

Sinon:

なるほど……。会ったことあるねみたいな方もいるけど、だいたいは初対面?

hide:

だいたいは初対面の方ですね。

Sinon:

インタビューを実際にするときの進め方について伺いたいのですが、それはhideさんが仕切って進めていくんでしょうか?

hide:

そうですね、会社の会議室やスタジオなどで、作曲家さんと向き合って「今日はよろしくお願いします」とご挨拶した後に、事前にお送りしていた質問リストに沿ってお話を伺っていきます。

Sinon:

インタビューをするときのコツなども聞いてみましょうか。最初は雑談から入ったりするんですかね?

hide:

そうですね。例えば僕が触れたゲーム音楽を手掛けた作曲家さんだったら、「あの音楽がすごく好きでした!」的なことをお話しすると、喜んでいただけますね。そんな感じで、はじめの数分間くらいは雑談から入って本題に進んでいく、という流れはあります。

Sinon:

それをインタビューして……録音とかさせてもらうんでしょうけども、それで今日はありがとうございました、となって帰ったらそれを文字起こしするという流れでしょうか?

hide:

そうですね、それを文字に起こしていって。あとは全体の構成や流れを決めて原稿を書いていきます。

Sinon:

1時間くらいのインタビューですと、文字起こしとか最終的に原稿を完成させるまで、どのくらい時間がかかりますか?

hide:

たとえば1時間のインタビューをしたとしましょう。文字起こしに関しては、本当に集中してがーっとやれば1日あればできます。その日のコンディションにもよるんですけど(笑)。
たまに、他の方がインタビューした録音を文字起こしすることがあるんですけど、やっぱり自分自身でインタビューしたほうが、話した内容がまだ新鮮に生きているので、がーっとやれますね。
最終的に完成させるまでは、記事の内容やスケジュールにもよりますけど、3日から1週間というところでしょうか。

Sinon:

ちなみに、スランプにかかると「1週間やっても終わらん……!」みたいなことはあるんでしょうか?

hide:

時々あります(笑)。たとえば体調が悪い場合とかは、「ちょっと今日はアカン!寝よ!」と思っていさぎよく寝ますね。でもってHPが回復した後に書く、ということはあります。体調が悪いときに無理をしても、作業効率が悪いですから。

Sinon:

私がトライノートの議事録とか書くときもそうなんですが、時間を空けちゃうと「アレ、このメモなんだったっけな……」みたいにちょっと忘れてきちゃうことがあって。やっぱり新鮮な内にやったほうがいいんですかね。

hide:

そうですね、できるだけ新鮮なうちのほうがいいですよ。編集するのはちょっと時間が空いてからでもいいんですけど、文字に起こすのはできるだけ直後の方がいいです。

Sinon:

編集はむしろちょっと時間置いた方が頭が整理されて、どういう記事の並びがいいか見えやすいとかはあります?

hide:

それもありますね。時間を置いた方が、頭が整理されて、よりフラットな目線で原稿を見ることができます。

Sinon:

記事の構成は、必ずしもインタビューした時系列順ではなく、順番を入れ替えてる?

hide:

そうですね、話の流れ的にその方がよいと判断したときは、大幅にガッと入れ替えることもあります。

Sinon:

このエピソードが先の方が通りがいいかな、みたいな?

hide:

必要だと判断したときはそういうこともあります。

Sinon:

こういったインタビュー記事ですと、雑誌とかじゃないから専門の校正の人とかって付いてはいないのかな? 校正とかまでは全部自分で?

hide:

雑誌の場合は編集者さんがいらっしゃるので、そういうときは自分で書いた原稿をお送りして、校正や内容のチェックをしていただきますね。

Sinon:

そういった校正では、ガッツリと修正がきたりするものなんでしょうか?

hide:

そうですね、時々「ここは、こういう表現の方がいいと思います」的な修正依頼はあります。2083WEBだとだよタンさんに見てもらうのですが、だよタンさんは割とお任せしてくれますね。

(参加者):

だよタンさんの場合はskypeとかでやりとりするのかな? 電話とか直接声でやりとりするの?

hide:

電話でやりとりすることもあれば、メールやチャットでやりとりすることもありますね。

Sinon:

なるほど、そういう形で原稿が作られていってインタビューは世に出るわけですね。

hide:

そうですね。あと、インタビューのときには、基本は質問リストに沿ってお話を聞いていくんですけど、その最中に新しく生まれた質問を突然入れ込むこともあったりします。そうすると、お話しいただく方が「う~ん」と考える時間が少し生まれるんですけど、そこから思いもよらない新しい話の流れが生まれたりすることもあります。

Sinon:

なるほど、そういうテクニックが……!

hide:

事前にお送りする質問リストにはあえて書かずに、当日いきなり質問をぶつけてみるということも時々ありますね。

Sinon:

他に、コンサートのパンフレットとかで対談記事や座談会みたいな複数人数の形式のものもあると思うのですが、そういうのもhideさんがインタビューして話を伺うんでしょうか?

hide:

そうですね。

Sinon:

「私がテーマを伺いますので、お2人はそれについてよろしくお願いします」みたいな感じで進めていくんでしょうか。

hide:

対談や座談会のときは、こちらからある程度話題を振っていって、話が途切れたら次の話題を振っていく、という形が多いです。

(次ページは、hideさんのライターとしてのお話です)<次ページへ続く>